竹本住大夫の至芸

4月5日に竹本住大夫引退公演を観てきました。大阪国立文楽劇場の初日です。

住大夫さんの浄瑠璃は、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)・桜丸切腹の段でした。住大夫の語り、テレビでは何度か観ていますが、生で観るのは2回目です。

古典芸能を観るきっかけは、亡くなられた歌舞伎の富十郎さんが息子さんと勧進帳の舞台をやるというテレビの番組でした。歌舞伎を観ているうちに、能も狂言も文楽も、その素晴らしさを理解できるようになったというわけです。

私は、ピアノを習わされ、クラシックのレコードを母に「プレゼント」され、国際会館での第9や白鳥の湖などに連れて行かれるうちに、クラシックを理解できる感性を養われました。一方、愚かなことですが、日本の古典芸能は、芸能というくらいだから芸術である西欧のクラシック音楽に及ぶまい、などと思い込んでいました。

しかし、たとえば、西欧の総合芸術であるオペラは一般に単純な恋物語で、最高と思われるボエームやトスカやバラの騎士など感動的ではありますがお話しとしてはたいしたことはありません。優劣をつけられるものではありませんが、日本の古典芸能のほうが、怨念話でも仇討でも恋物語でも、登場人物の感情がこまやかで、幽玄、義理、人情など味わい深いものがあります。

今回の住大夫さんの浄瑠璃も感情表現がこまやかで最高でした。至芸を体験できたことは人生の宝です。観客ほぼ全員が泣いていました。

行ったことがなかったので、曽根崎心中ゆかりのお初天神に行ってきました。

 

大阪、天神、天満宮といえば、NHKのドラマ、銀二貫もいいですね。冒頭の「この仇討買いました。」にすっかり参りました。曽根崎心中も銀二貫をだましとられる話ですから、古典を踏まえているのですね。ついでにレミゼラブルの銀の燭台も連想させられます。

さて、このような義理人情の素晴らしさをまったく理解できない人が大阪とNHKのトップにいるというのは何とも皮肉なことです。

この人たちを選んだのは、どなたはんでっか? 先人が残してくれた古典芸能が泣いてまっせ。皆さんしっかりしましょうや。