新国立劇場のオテロ
開場20周年の新国立劇場を初訪問しました。天井が高く、ほど良い奥行の空間、音響効果のため床も壁も椅子も木製、シックな色調で雰囲気満点です。座席は1,814席しかなく、ゆったりしています。常設のオーケストラピットでは東京フィルの若いメンバーが、メモを書き込んだ楽譜を前に一生懸命に最終の練習をしていました。いよいよオテロが始まると、冒頭の嵐の場面、弦楽器と管楽器の早いパッセージに一糸乱れない合唱が加わり、素晴らしい音楽です。日本の若い芸術家たちが素晴らしいオペラをやっている、こういうレベルに達しているのだと涙が止まりませんでした。
漢字3千年
京都市美術館別館で開催された「特別展 漢字三千年」。中国が一級文物(日本での国宝)を多数、貸してくれています。展示物は外国の美術博物館に倣って撮影可能でした。
最古の漢字
一級文物 《“歳于中丁” 牛胛骨卜辞》 長29.5cm・幅21cm 商 安陽博物館蔵
現在確認される最古の漢字です。3200年前、商(殷)時代、牛の肩甲骨に刻まれた甲骨文字です。亀の甲羅や動物の骨に刻まれた文字は神に神意を問うものです。
最古の医学書
一級文物 《五十二病方》(部分) 縦31cm・横18cm 前漢 湖南省博物館蔵
現在知られる最古の中国医学文献。絹に書かれた帛書(はくしょ)。52種類の病気について、治療法の記載二七〇余方などが記される。約2200年前の馬王堆漢墓(まおうたいかんぼ)から出土。 前漢の長沙の長官とその妻子を葬る。1972年の発掘時、利蒼の妻の遺体が未だ生けるが如き状態だったことで有名。
文字のある兵馬俑
一級文物 《鎧甲武士陶俑》 高180cm ・幅67cm 秦 秦始皇帝陵博物院蔵
八千体前後の大量の兵馬俑の製作のため、都で瓦や陶器を焼いていた工匠たちが総動員された。兵馬俑の中には製作者の工匠の名前が小篆という書体で押印されていたり、刻まれていたりするものがあり、胸の中央やや左に「不」と書かれています。「不」は苗字でなく、名前であり、「不」の兵馬俑が7体あるそうです。
蘭亭序
「清拓蘭亭八柱帖(しんたくらんていはっちゅうじょう)」清朝・乾隆帝が集めた王義之の書「蘭亭序」の模写の拓本=清時代・故宮博物院蔵 最も有名な書、王義之の蘭亭序です。紙の普及とともに、書の芸術性は一気に高まりをみせ、その象徴が、4世紀・五胡(ごこ)十六国時代の東晋の貴族書家、王羲之(おうぎし)(303〜361年)。原本は唐太宗が死後に昭陵に納めさせ、後世の盗掘で無くなっています。蘭亭叙がすぐれているのは、宴席で酔って書いた「卒意の書」(うまく書こうと気負わず、自由に率直に書いた書)であったからだと言われています。
草間彌生展
国立新美術館開館10周年の展覧会です。草間彌生が2009年から意欲的に取り組んでいる大型の絵画シリーズ「わが永遠の魂」から厳選した約130点を一挙に公開。色彩豊かな画面、具象的なモティーフと抽象的なパターンの自在な往還。見るものを元気づけてくれる圧倒的パワーを感じさせてくれる空間でした。
わが永遠の魂
撮影ができなくて残念ですが、今回の展覧会では、富士山の作品「生命は限りもなく、宇宙に燃え上がって行く時」に最も惹かれました。アダチ版画が現代の浮世絵として制作依頼したもの。テレビ番組で制作過程を見ましたが、草間彌生さんが初めて富士と間近に対峙し、心を動かされ、一気に描きあげた作品。悠々と裾野を広げてそびえる孤高の富士の独立峰の存在感、溢れるような生命力、見るものを幸せにする傑作です。
ミュシャ展
アールヌーボーの旗手として、サラベルナールのポスターでお馴染みのミュシャですが、後半生に描いた20点の絵画から成る連作『スラヴ叙事詩』に圧倒されました。スメタナの「わが祖国」に感銘して、汎スラヴ主義を基に、空想上の民族「スラヴ民族」の歴史を描いたものです。晩年、ミュシャの絵画は国民の愛国心を刺激する、という理由でナチスに逮捕尋問され、体調を崩して祖国解放を見ずに生涯を閉じました。
「人々の絆を破壊することではなく、むしろ彼らの間に橋を架けること」(ミュシャ)